数学の先生方がまだ、高校生や大学生であった頃、あるいは駆け出しの教員であったころのことを思い出してください。昭和45年頃は、プリントや試験問題は、鉄筆で原紙を切って手動の輪転機にかけていました。コピー機や回転式の製版機ができ、輪転機も電動でずいぶん楽になりました。今や原稿をセットし、枚数を指定するだけで、印刷は完成する時代になっています。もちろん手書きからワープロに移り、複雑な数式もTexで美しく仕上がります。成績処理も、そろばん、電卓を経過して今やコンピューター処理をしていない学校など考えられません。外部との連絡も、電話と郵便しななかったわけで、今のようにFAXやE-mailなど夢のような世界でありました。今や生徒でも携帯電話をもち、internetで海外と情報交換をしている時代です。学校をとりまく環境はテクノロジーの利用でずいぶん便利になりました。家庭をはじめ世の中の様々な分野にテクノロジーが溢れています。
しかし、数学の授業はどうでしょう。昭和45年頃と何か変わったことがあるでしょうか。少し内容の並べ替えがあり、少し内容が平易になり、少し新しい内容も加わりましたが、チョークと黒板と先生のしゃべりが授業の中心であることにはまったくかわりません。授業中は静かに先生の話を聞き、ひたすら黒板を写し、問題集を練習し、教えられたことを速く、正確におうむ返しできる生徒が優秀な生徒であると評価される。このような状況は異常だと思われませんか。この状況ではいくら教育課程をいじくりまわしても理数離れは防げません。現実に生徒の反応の中で日々の授業を持っている現場の教師(米国ではClassroom Teacherと呼びます)の心の奥から湧きあがる教育への熱意こそがこれに対応できる唯一の力ではないかと思います。そうです、私たち教師が変わらなければ、理数離れはなくならないのではないでしょうか。
アメリカでもコンピュータを中学校や高等学校の数学に活用すべく、様々な試みが行われました。しかし価格の高さ、ソフトウェアの不十分さ、コンピュータ教室への移動、機器の台数と学生数の不釣り合いなどに多くの教師は疑問を持ちました。これを改善し、すべての学生にいつでもテクノロジーの恩恵をと、1987年にアメリカオハイオ州立大学のDr. Bert Waits教授とDr. Franklin Demana教授がグラフ電卓による高等学校数学の授業を試みたのです。それが急速に発展し、1992年に中学・高校の教師を含めたグループによる本格的な研究会が組織され、T3という名がつけられたのです。
現在アメリカではグラフ電卓の活用がたいへんな勢いで進んでいます。教師から生徒への一方通行的な知識伝達型の伝統的授業ではなく、生徒が主体的に学習する数学が根づいてきています。事実、NCTMスタンダードの喚起、高校生の30%以上が個人所有していますし、大学の単位が高校で取得できるAP Calculusの講座ではグラフ電卓の浸透率は90%にも及びます。また昨年、ついに2つの州政府が予算措置を講じ、州内のすべての小・中・高生徒に無償でグラフ電卓を持たせるところまできています。
10年以内に、否そこまで先延ばしはできないでしょう、先進国では手のひらサイズのグラフ電卓が教室で大活躍をする時代に突入します。このようなテクノロジーの利用は計算力の低下を招くだけだと心配する人がいますが、それはテクノロジーの利用の仕方が悪いこと、今までは計算を主体に教えてきたことなどからそう思われるわけで、実際は生徒から、思考力を奪うものではありません。このことは、教師自らがテクノロジーを使って「数楽」してみることによって、はっきりと体験できるでしょう。故に、教師が変われなければと思うのです。
とにかく触ってみましょう。あの小さな箱にびっくりするような宝物が隠されているのです。あなたはその中身をすべて生徒に紹介する必要はありません。扉を開けてあげるだけでいいのです。あとは生徒の方が夢中になるでしょうから。テクノロジーの時代を生きる生徒ですから。
この会は、他の日本の数学教育の学会などとは違い、はっきりした組織体があるわけではありません。米国オハイオ州立大学のBerts Waits教授とFranklin Demana教授の考えに賛同する人々が、数学教育におけるテクノロジーの利用に向けて、自分たちの実践を報告、公表し、生徒にとって有用な算数・数学教育法を開発するための会です。米国ではこの1月、第11回の年大会がシカゴで開催されました。25ケ国60名の招待参加者を含めて、2,700を越える参加者で大盛況でした。
昨年の8月22日−23日で開催された、T3Japan年会は、200名を越える教師が集まりました。米国のそれに比べると、まだよちよち歩きの段階ですが、それゆえに教師自身にも発見の歓びや探求の楽しさ、議論の面白さが体感できるでしょう。
司会者も指導助言者もいません。発表者が自分で自分の持ち時間を自由に運営していきます。テクノロジーを用いる教育がメインですから、ワークショップ形式が多く、参加者が実験に加わり自分がテクノロジーの効果を体験できることが大きな特徴でしょう。参加された先生方がまわりにいらっしゃれば、是非、その評判と感想に耳をかたむけてください。
第3回の年会には、T3のinstructorでもあり、現在、文部省のメディア教育開発センターの外国人招聘教授であるDr. Delwyn L. Harnisch(イリノイ大学教授)と米国T3の第11回年大会・シカゴのConference Chairを務めたJohn R. Brunsting(Hinsdale Central 高校)のお二人が参加を予定されています。
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T3Japan事務局
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